スポーツ医学とスポーツ現場をつなぐコミュニケーションブログ
 
3月の楽旬楽食は、筆者の子ども時代、お母さんに作ってもらったワンピースから始まります。ファッションの街、神戸らしい話題です。ある年齢以上の人には懐かしい話でしょう。そして、今月のフードレシピは「春巻」です。ぜひ、お試しを。

くるみボタン (文・料理/大仁浩子・もも家店主、イラスト/横江節子・神戸垂水区在住)

イラスト04
 私の母は若い頃、東京の文化服装学院に学んでいて、洋裁教師を目指していました。戦争が始まり、髪や服を飾るなどという者は非国民という時代に卒業しましたから、その夢は消えたのですが。

 昭和20年8月。苦しかった戦争が終わり、母は父と結婚。そして、第一次ベビーブーム時代に私が生まれ、それから次々に2人の妹が生まれました。物資の乏しい時代で、母の洋裁技術は3姉妹の洋服作りに生かされることになったのです。

 その日、私たちは赤い水玉模様のおそろいのワンピースを着せられ、町に1つだけあるデパートに行きました。道行く人は、私たちの服に足を止め、お人形のようだと口々にほめそやし、風にスカートがひるがえるたびに、私たちは一層得意げに歩いたものでした。

 デパートの玄関前の路上から、もの悲しいアコーディオンの音が響いていました。近づくと、白い病院服姿の傷痍軍人さんの軍歌が聞こえていました。まだ、町のあちこちに敗戦の影が残っている時代でした。

 私たちが成長するにつれ、母はますます服作りに追われ、その上に、近所や親戚の服を頼まれて縫い、夜は、近くの寮に住む看護婦さんたちに洋裁を教えていました。新聞紙で型紙をひき、裁断、切りしつけ、仮縫い。ほどいてミシンで本縫い。自分で縫わなければ洋服は着られない時代でした。

 いつも誰かが家に出入りし、半縫いの洋服がハンガーに下がっていました。学校から帰って小学館の学年雑誌「小学一年生」を読んでいると、母が風呂敷包を持ってきて、

「岡山さんのところで、これで“くるみボタン”をこしらえてきて頂戴。今月号の本も届いている頃やから、買ってきなさい」と本のお駄賃つきおつかい。

 岡山さんというのは、町内にある万屋(よろずや)。小さな店内に、文房具、洋裁道具、雑誌や本。下駄の鼻緒のすげ替え、くるみボタン作り。表通りの小窓で煙草も商っていました。小さなタイルで、TABACOと壁に書いてあるのが目印。眼鏡の奥で目が光っている無愛想なおじさんが岡山さん。黙って風呂敷を解き、メモを見て作業に取りかかる。待つ間の所在なさに、本や文房具に触ろうとすると、岡山さんはエヘンと咳払いするので、あわてて手を引っ込める。仕方なく、岡山さんの手元を見ているうちに、私はすっかりくるみボタンの工程を覚えてしまった。布を丸く切り、出来上がりボタンの大きさの木枠にそれをかぶせ、半球形のアルミを木槌で押し込み、千枚通しではみ出た布を中央に寄せ、受け手側の半球形のアルミを押し入れ、木槌で軽く叩いて、木枠から抜いて出来上がり。コロコロとボタンが生まれてきました。

 布製のくるみボタンは温かな手触り。布の重なりを留めるボタンの役目をしながら、服の控えめなアクセントになりました。まだプラスチックのボタンの種類がない頃、このボタンは手軽で安価なものでした。私が着るブラウスにも、オーバーコートにも、くるみボタンがついていました。

 夏が近づくと、母の姉、大和町の伯母さんが、スワトーの白いパラソルをさして家に来ていました。いつもは大島紬の着物を着ていましたが、伯母さんは身長もある上に太っていて、大変な汗かき。夏になると、サックドレスという筒型の洋服を何枚も仕立てて着ていました。そのために、伯母さんは下着のブラジャーまで母に縫ってもらっていました。

 “乳バンド”という名前のついた木綿のその下着は、今のブラジャーのように胸を美しく見せるというより、大きな乳房をギュッと締めつけて、小さく見せるための下着。伯母さんが、その下着の仮縫いをするとき、私は、笑いをこらえて目に涙をためて見ていました。伯母さんが、

「ねえ、もう少しゆるうして」

「いえ、姉さん、このくらいきつくしとかんとこぼれ落ちてしまいます」

「あと一寸。なあ、ゆるめて」と母と攻防が続く。

 後になって、映画「風と共に去りぬ」をみたとき、ビビアン・リーが、ばあやにコルセットの紐をギュウギュウ締められるシーンで、思わず、伯母の乳バンドの仮縫いが思い出されたのです。

 そのコルセットは、長い間女性の身体を締めつけた下着。そして、そこから開放するための服のデザインをした人は、ココ・シャネル。実用的で機能的な形にシャネルらしいエレガントさが加わった服は、女性が自由に社会で働くことができる服の誕生でした。母や伯母たちが動きにくい着物から洋装へと変わってゆけたのは、シャネルのデザインがあったから。パリから遠い日本にあっても、その影響を母たちの時代は受けていたのでした。中学生になって、少しお洒落に目覚めたある日、母に言いました。

「母さんみたいに洋服を作ろうかな」と。

 母は即座に

「洋服作りは時間と手間がかかる仕事。もうすぐ注文服の時代が終わり、巷には大量の様々なデザインの既製服が出回る。あなたにはそれを着て、社会に出て自由に生きてゆきなさい。母さんのように家で服を作るばかりの時代は終わったんよ」と答えたのでした。

 まるで、洋服作りの時間は人生の時間の無駄だったとも受け取れました。その答は母の人生の後悔のひとつとして、悲しく私の胸にひびきました。そして、それから母の予言した通りに、街に服があふれる時代がやってきました。流行が目まぐるしく変化し、大量生産・大量消費の時代を、忙しく私は生きています。それでも時々、時間が止まり、母の面差しが浮かびます。

「母さん、私は、あのくるみボタンのついたワンピースが、世界中で、一番好きだったのですよ。」

 母が生きていたときに、伝えたかったメッセージです。

*神戸ファッション美術館
ファッションをテーマにした日本初の美術館。神戸市の海上都市、六甲アイランドに1999年開館。UFOをイメージさせる斬新なデザインの外観を持つ。
神戸市東灘区向洋町2-9-1
JR住吉駅より六甲ライナー乗車、アイランドセンター駅下車、徒歩2分。
現在の展示:「モダーンズ-東西新世代女性たちの装い-」
1/27~4/3
 


「もも家」のフードレシピ

春の春巻

イラスト03
カレンダーは3月。一日ごとに明るい日差しが戻ってきました。光の春の到来です。今月は、春の食材を、白いスカーフのような春巻の皮に包んでお届けします。具材は、若鶏、春の雨のように細い緑豆春雨、そして、春子と言われる旬の椎茸。少しエスニックな香りと味つけで、春の春巻を、どうぞお楽しみ下さい。

 材料(春巻10本分)
若鶏 もも肉 1枚(約250~300g)
生椎茸 6~8個(約200g)
緑豆春雨 乾燥したもので50g
春巻の皮 1袋(10枚)
生姜 細い千切りにして 大1
小麦粉 大1
サラダ油(揚げ油として)
食材ではありませんが、フライパンの大きさのアルミ箔1枚。

◆調味料
鶏の下味として、{焼酎(または日本酒)大1.5、塩こしょう}

◆具材の合わせ調味料
豆板醤(トーチージャン)大11/2
醤油          大1
オイスターソース    大11/2
カレー粉        小2
黒こしょう       大1
塩           小1/2
砂糖          小1/2
ゴマ油         小1

 作り方
イラスト01①春雨は、熱湯で5~6分、しっかり茹で、ザルにとり、さっと上から水をかけ、ほぐしやすくして水気をとり、2~3cmのザク切りに。

②鶏は、塩こしょうして焼酎につけ、20分おく。

③生椎茸、春子といわれるものは肉厚ですから、かさは半分にそぎ切りして7mmくらいの角切り。軸の部分も細かく刻んで使います。

④鶏肉は、キッチンペーパーで水気をふきとり、軽く塩こしょう。筋切りし、肉の厚いところは、切り開いて厚みを均一にし、小麦粉を両面にまぶして、サラダ油 大1で皮のほうからフライパンで焼く。きつね色になったら裏返し。アルミ箔をかぶせて、弱火にして、蒸し焼きする。冷めてから、1cmの角切りに。

イラスト02⑤すべての具材をボールに入れ、合わせ調味料を少しずつ入れ、味見をしながら、まぜ合わせます。生姜の千切りも加えて、10等分しておく。

⑥小麦粉に水(少々)で糊を作っておく。

⑦春巻の皮(ツルッとしたほうが表面)の裏面に当分した具材をおき、図のように折りたたんで、糊でとめる。

⑧サラダ油で、カリッと、こんがり、きつね色に揚げる。春巻の皮は焦げやすいので中火で。

 下味のしっかりしたエスニックな春巻です。プリーツレタスやサラダ菜に包んでお召し上がり下さい。
 みずみずしい食感とともに春のうれしさがお口のなかにひろがります。
 それではまた、4月にお目にかかります。


編集部より:大仁さんのフードレシピについては、このサイトで多数見ることができます。また、この記事の著作権は大仁浩子さんに帰属し、イラストの著作権は横江節子さんに帰属します。著作権の侵害にご注意ください。

〔もも家〕
TEL:078-391-2466
住所:兵庫県神戸市中央区中山手通1-7-20 前川ビル2F
(三宮駅の北、徒歩5分)
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2011/04/03(日) 13:17 | | #[ 編集]
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