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東北関東を襲った大震災、その後の原発事故。いまだ落ち着くことはできない状況です。今月は、阪神淡路大震災を経験された神戸・三宮の「もも家」店主、大仁さんが「あの日」以来を語ります。そして、フードレシピはイカナゴの「くぎ煮」。編集部にも送っていただきました。涙が出るほどおいしかった。

古墳を訪ねる日
 (文・料理/大仁浩子・もも家店主、イラスト/横江節子・神戸垂水区在住)

イラスト4
 あの日以来、ぼんやりしている。あの日は3月11日。テレビは東北の大震災の模様を刻々と伝えていた。それは想像を絶する光景。津波が襲った海岸線の広さと深さ。その無慈悲で無差別な巨大な力。被害にあわれた方々の悲しみは慟哭となり、日本をおおっていった。なんという、天のなさりようだ。

 16年前、私は阪神大震災の渦中にいた。ドドーッという爆音とともに、直下型地震は断層を走り、一瞬のうちに家々をダルマ落としのように崩した。

 1階が1mほどのガレキとなり、2階がその上に乗っていた。人々は2階の窓から裸足で地表に逃れた。誰かの懐中電灯で埋もれている人を助け上げた。夜がしらじらと明けたとき、私たちが目にしたのは、一面のガレキの原野だった。何が起きたのか、皆すぐに理解できず、道にゾロゾロと立ち尽くす。ガスの臭いが漂っていた。「煙草を吸うな、引火するぞ」と叫ぶ声がした。

 2日目の夜、倒壊した家から、火が出た。煙の臭いに気づき、外に出ると、火の粉が舞っていた。闇の奥から、「町内に残っている人は逃げてください」と、声がした。火の手が来るまで少しの時間があった。足がワナワナ震えていたが、大きな声は出た。

「着込めるだけ着て、上にはオーバーを。どこまで歩けば電車が動いているのか。とにかく東へ向かって」。

 そして荷造りをした。いざ持ち出すものをと考えたら、家の品々は思い出と懐かしさにあふれたものばかり。これが数時間後にはなくなるのかと思うと、はじめて泣けてきた。

 小さなリュックに、あれもこれもと押し込んでいたら、傍らの娘が静かに言った。

「お母さん、もう何もいらないじゃない。リュックが重いと逃げられないよ」。

 家族が身仕度をして玄関に揃った。夫は位牌と数珠と過去帳と薬。長女はセキセイインコのピピちゃんの鳥籠とピピの餌。次女はアルバムをリュックに入れ、昨日、拾ってきた飼い主のないブチの犬を連れていた。犬は洗濯ロープを首に結ばれて、大人しく座っていた。もうずっと前から、この家にいた犬のように。

 火の粉がパラパラと屋根にかかりはじめ、黒煙が追ってきた。少し歩き始めて、私はもう一度、家に引き返した。ガスの元栓が気にかかる。家人は、焼けてしまうのに、そんな元栓なんてと言ったのだが。線路沿いに歩きはじめたら、風向きが変わっていることに気づく。我が家は風上になった。消す水などないのだから、火は次々と家を飲み込み、風下の海手の町に向かっているようだった。余震が続き、家はそのたびにギイギイと音を立てたが、結局、その夜は、靴を履いたまま、玄関の上がり框で夜を過ごした。

 天災を語るときに、幸せにも、という言葉はふさわしくないかもしれな。東北の方々の辛さを思えば、こんな火事くらいなんでもなかったことのように思える。見ようによれば、鳥籠と犬を連れた家族は、「幸せの青い鳥」捜しに出かけるところに見えたかもしれない。

 しかし、火事に遭って以来、私の頭の中に奇妙なビョーキが住み着いてしまった。突然、ガスの元栓を閉めたかどうか、不安で仕方なく、何度も確認するクセ。ほとんどビョーキのような。外出していても、元栓が頭に浮かぶと、もう居てもたってもいられなくなる。ゾワゾワしてくる。打ち消しても打ち消しても、元栓から火が出る妄想が浮かぶ。鳥肌が立つ。冷たい汗が流れる。10年ばかり続いたこのビョーキを、最近はうそのように忘れていた。

 それなのに、また、ビョーキが住み始めた。福島で原発事故が起きていた。30年も前、2人の幼い娘を育てている頃、私は原子力発電所建設反対の署名集めをしていた。ごくささいなことがきっかけだった。広島生まれの両親が語った原爆の恐ろしさと、幾世にもわたる苦しみ。原発では、その原子爆弾を作れる機能があることを知ったから。

 世の中の経済活動は右肩上がり。それを支えるエネルギーとしての電気が大量に必要だと言われていた。電力会社は「原発は安全、環境にクリーン」をうたい文句にする。

そんなに安全なら管理のしやすい都市部に造れば?
もし、事故が起きれば、核廃棄物で汚染された建物や土地はクリーンといえるの? 
汚染されたら何を食べるの? 
この幼子のミルクはどうなるの? 
一度造った原発は使用済みになっても、何百年も電気を使って管理し続けなければならないでしょ? 
電気を作って、その管理にまた膨大な電気を使うんでしょ? 
電気を作りながらそれを消費するなんて、変なサイクルにならない? 
核の不安と暮らすなんて、それが幸せな電気の使い方かなあ? 

 不安と不審は果てしなくあった。

 それに、そのことは生き方のスタイルを問われることでもあった。建設賛成派の人が私に言った。

「奥さん、今の時代に、車もエアコンもなく暮らせますか」。

 暮らしてみせる、と答えた。それ以来、我が家には車もエアコンもない。

「そんなに無理せんと、便利に使うたらよろしい。原発は科学と技術力が最高に結集したもの。完全にコントロールされたエネルギー」だと。

 しかし、完全なことなど、何一つ世の中にはないのだ。ましてや人は失敗するもの。神様ではないのだから。

 ああ、でもやっぱり。完全にコントロールされているはずの原発をコントロールする3原則は「止める、冷やす、閉じ込める」。確かに、津波で原発は止まった。しかし、冷やせない。冷やせなければ、この魔物は自ら勝手に激しくエネルギーを出し、暴走する。反対運動が起きて間もなく、今から25年前、あのチェルノブイリ事故が起きた。ヨーロッパ中を震撼させて。その時の恐怖体験もあって、原発のニュースはジュネーブに住む妹がいち早く知らせてくる。

 今や福島は「フクシマ」となって、世界中の人が息を詰めて見守っている。津波と原発と、福島の方々の辛さを思うと、どんななぐさめの言葉もない。すっかり疲れていた。

 静かなところに出かけたいと思った。あまりにも混乱していたから。そこは遠い遠い昔の人が住んでいた場所。そして、静かに問うてみたいと思った。

「私たちは、何を学んできたのでしょうか。私たちが手に入れたと錯覚していた知恵のことごとくは、天の災いの前には、こんなにももろく、儚いのです。私たちは、この混乱の中から立ち上がれるのでしょうか」。

 古墳の周りには人影もない。けれど、かすかに古墳の主の声がした。

「自分が、ここに今もあるように、このことを過去のものとして忘れてはならない」。

 そう聞こえた。頭に住み始めたビョーキを道連れに、私は東北とフクシマと生きてゆく。


*五色塚古墳
兵庫県最大の前方後円墳の別名。千壺古墳。築造年代は14世紀末~5世紀初め。国の史跡。
神戸市垂水区五色山4丁目。



「もも家」のフードレシピ

くぎ煮

イラスト3 五色塚古墳からは、眼下に明石海峡、その先に淡路島が浮かんで見えます。先の阪神淡路大震災の震源地は、この島の北西の野崎断層。今から16年前の「あの時」がうそのように、春霞にけむっています。

 この淡路島との海峡あたりは、「鹿の瀬」と言われ、毎年、春になると、「イカナゴ漁」が盛んな海です。イカナゴは小女子(コウナゴ)の稚魚。細長いメダカのような大きさの頃を見計らって、佃煮にします。

 西は加古川から東は西宮あたりまで、春先には、この「イカナゴの新子」が1kgずつ袋で売られ、それを買い求めて、魚屋さんの前では主婦が行列をつくります。

 佃煮は、くぎ煮といわれ、その家々の秘伝の作り方がありますが、一般的に、魚屋さんで教えていただくレシピと、もも家流のレシピを載せました。

 毎年、もも家から、海外を含めて20カ所に、この「くぎ煮」をお送りしていますが、そのため、少し、味は甘辛く、保存に耐えるように仕上げています。

 材料
いずれも、生の新鮮なイカナゴで。

◆一般的な魚屋さんで教わる分量
イカナゴ  1kg
黄ざらめ 300g
醤油    250cc
みりん   70cc
土生姜  少々
(各々の家で、山椒の実や唐辛子なども)

◆もも家の分量
イカナゴ  1kg
黄ざらめ  330g(1kg入りを3等分した1回分)
醤油    240cc
土生姜   50g(薄切りしたあと、細切り)

 作り方

イラスト2
イラスト1①イカナゴをザルにあけ、魚の腹が傷まないように、一度手に受けた水をシャワー状にかけまわして、汚れをとり、そのあと、水分を切る。

②平鍋(直径30cmくらい)に調味料すべてを入れ、竹ベラでかき混ぜながら、ザラ目を煮溶かす(高温になるので、ヘラは木か竹のものを)。

③調味料がわいてきたら、生姜を入れ、再び、沸騰したら、イカナゴをひとつかみずつ調液の中に入れる。
強火で一気に煮立たせ、表面のアクをすくいとり、アルミ箔を鍋の大きさに合わせたフタにして、常に、調味料がイカナゴの上にまわるようにして、30~40分煮る。
この間、決してアルミ箔をとったり、箸でかき混ぜない。

④煮汁が鍋底に残り少なくなったら、一度だけ、鍋がえしをして上下をひっくり返します。

⑤煮汁がほんの少しになったら、平ザルにあけ、煮汁を切る。少し箸で広げて、うちわで冷風を送り、一気に冷まします。

編集部より:大仁さんのフードレシピについては、このサイトで多数見ることができます。また、この記事の著作権は大仁浩子さんに帰属し、イラストの著作権は横江節子さんに帰属します。著作権の侵害にご注意ください。

〔もも家〕
TEL:078-391-2466
住所:兵庫県神戸市中央区中山手通1-7-20 前川ビル2F
(三宮駅の北、徒歩5分)
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2011/04/13(水) 22:24 | | #[ 編集]
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