スポーツ医学とスポーツ現場をつなぐコミュニケーションブログ
 
 春は別れと出会いの季節。今月のショートストーリーはペットとの出会い(と別れ)をめぐる話。今月のレシピも春らしい一品。桜も咲き始め、新入生、新入社員、その他新人に満ちるとき。よき「始まり」でありますように。

バゼンジーという犬
(文・料理/大仁浩子・「もも家」店主、イラスト/横江節子・神戸市垂水区在住)

 突然、犬を飼うことになった。犬種、バゼンジー。6歳のオス・8㎏。アフリカ原産で、ピグミー族が飼っていて発見された犬の原種だという。

 この犬の6歳までの飼い主は私の友人。ある日、電話がかかってきて「家族は解散することになった」という。そして彼女は長女と暮らすことに決めたのだが、飼っていた3匹の犬が飼えなくなった。と涙声で話し始めた。流れる涙は、去っていった夫のことではなく、子犬から育てた3匹の行く末。

「泣かないで。そのうち一匹は私が預かるから」と即答したのだった。そして、8月の暑い午後、犬がやってきた。

 待ち合わせのファミリーレストランで、彼女にバゼンジーの飼い方を教わった。

「吠えることができないので、猫のような犬です。何かに興奮すると、独楽のように1人でクルクル回って表現します。朝夕2回のお散歩とドッグフードと水。ときどきキャベツの芯やキュウリ。手がかからないので忙しい家族でも大丈夫」という。

 それから駐車場に行き、後部座席から飛び出してきたバゼンジー種「シンバ」と対面した。小さな三角の耳、細い顔。太くて長い首と銅。それを支える華奢な足。クルリと巻き上げた尾。ビロードのような短毛。身軽に軽快に歩く。彼女は荷台から段ボールを運び出し、「これが当座のドッグフード。キルトのおくるみ。お気に入りのベッド。それから寒がりなので、冬になったらこのチョッキを着させてやって下さい。それから、それから……」

 もう涙で言葉にならない。シンバは、といえば、見知らぬ土地がよほど珍しいのか、地面に鼻をつけ、どんどん前へと歩き出した。別れの刻が近づいていた。

「じゃあね。大切に預かっているから」と短く挨拶をして、シンバと歩き始め、振り返らなかった。私たちの姿が見えなくなるまで、彼女が見送ることがわかっていた。

 バゼンジーはピグミー族の言葉で「藪犬(ヤブイヌ)」。からだを低くして藪の中に忍び込み狩りをする犬。吠えないかわりに、その好奇心と自立性を行動で示す犬だ。

 それがわかったのは預かった初めての夜。彼女と別れて近所の公園を巡り歩き、さんざん疲れさせて眠ってもらおうという作戦をたてた。家に帰り着くとフードを食べ、おとなしくベッドで丸くなり、眠っているように見えたので、玄関の灯りを消した。間もなく夫が「エライことや。シンバが逃げた」と叫んでいる。見ると玄関の網戸を突き破って逃げていた。あわてて外に出ると、リードが積んでいた古新聞の束に引っかかり、暗がりでしょんぼり座っていた。

 玄関内に入れても頭で戸を開け、逃亡しようとするので、とうとうその夜は夫が付き添って背中をなでて眠らせた。

 翌日からシンバはやっと自分の環境の変化に気づいたようだ。声を出さないので感情はほとんど読めない。朝夕の散歩と食事を淡々とこなし、あとは寝ている。尻尾を振るわけでもなく(巻き尻尾なので)、すり寄ってもこない犬に夫は「愛想のない犬やなぁ」とため息をつく。それでも、妻と会話の少なくなったこの頃、シンバは良い聞き役。夫の独り言にシンバはちょっと眉にシワを寄せて(バゼンジーはどの犬も眉間にシワがあり困った顔に見える)、気が向いたときだけ話に付き合う感じ。

 この一風変わった犬は、近所でたちまち評判になった。何しろ犬と見れば大型犬でも小型犬でも飛びかかっていくのだ。

 このあたりの飼い犬は躾がよく、行儀よくお散歩。そんななかでシンバだけはヤンチャの暴れん坊。「シンバ」はアフリカンネームでライオンという意味らしいが、名前どおりに向こうみずのライオン犬。近所の飼い主たちは、シンバを見かけるとあわてて路を曲がったり、走り去ったり。それでシンバはたいてい誰もいない道を散歩する。

 藪や木陰から山鳩を追い出したり、ハトの群れに突っ込んで大興奮。うれしくてたまらずクルクルとシンバダンスを踊っている。

 シンバを引き取る夏、我が家は大変な状況にあった。春頃から体調を崩した夫は入院し療養が長引いて歩行のリハビリをしていた。長女は数年前の交通事故以来、外出するのが不安で家に引きこもりがちだった。そんな日々の毎日に、生き物を育てることに決心がいったのだが、私には一つの思いがあった。何かの縁でやって来る犬にかけてみたかった。何か明るい新しい風が家にやって来るようにと。

 シンバとの生活はこうしてスタートしたのだった。やがて、忙しい私に代わって否応なく散歩は夫と長女の役目になった。ヨロヨロ歩く夫とシブシブ付き添う長女。シンバは全身の筋力で夫を引っ張り、茶目っ気で長女を笑わせる。ところが次女との散歩は少々話が異なった。何しろ走るのだという。

「シンバは暴走族よ。直線道路は飛ぶように走り抜くので着いていくのがやっと」だという。

 耳を頭にヒタとつけ、流線型にからだを伸ばして、それは見事に美しい姿なのだという。次女はシンバの祖先はアフリカの大地を全身全霊でこんな風に走っていたのだろうといった。

 半年も過ぎた冬の日、散歩は長女と私の当番になった。スニーカーの私をみて、シンバはいきなり走り出した。私はゼイゼイいいながら転ばないようについて走った。

 ところが数十メートルも走ったあと、シンバはいきなり立ち止まりクルリと後を振り返る。リードをひいて「さあ」とうながしても座り込んで動こうとしない。シンバの目の先にはゆっくりゆっくり歩いてくる長女の姿があった。そして長女がそばに来たのを見届けてから、また走り出した。
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 長女が少し遅れると身じろぎもせず待っている。どんなに無邪気に遊んでいても、ふと立ち止まって長女を気づかう。その仕草に胸が熱くなった。今度泣くのは私の番だった。

 この日以来、シンバは預かり犬ではなく「うちの家族」になった。

 お彼岸をすぎて少しずつ暖かくなって来た。シンバに誘われて散歩で脚力がついた夫と長女。シンバはこの散歩にうれしさを隠しきれず、何度もクルクルとシンバダンスを踊る。二人と一匹の楽しげな後ろ姿に春の光がふりそそぐ。

*王子動物園
バゼンジーはいないと思いますが愛らしいパンダとたくさんの動物と鳥たちがお出迎え。
4月5・6・7日は園内の夜桜の通り抜け。
(PM6:00~8:30、無料)
TEL:078-861-5624
阪急 王子公園駅 下車2分
JR灘駅 下車北へ7分



「もも家」のフードレシピ

菜の花の手まり寿司

 雪の多かった長い冬もようやく終わりを告げようとしています。先日は、高知から今年一番の桜の開花だよりが届きました。神戸の桜の名所、王子動物園では480本の桜の木に、うす紅のつぼみがふくらんで、春の訪れを待っています。
 今日は手早くつくって、お花見に持って行きたい「菜の花の手まり寿司」です。
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 材料4人分
鶏ミンチ450g
菜の花 1束
卵 5個
白米 3合

●調味料

鶏そぼろ用:砂糖 大2、醤油 大2、だし醤油 大2、酒50CC、塩 少々

錦糸たまご:砂糖 大1、塩 小1、片栗粉 大1を大2の水で溶いたもの

合わせ酢:米酢 50CC、砂糖 大2、塩 小2

 作り方
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①菜の花(1束)は茎の部分を3㎝切り、花の部分を用います。水で洗ってザルにあげておきます。煮立ったお湯にほんの5秒。緑が鮮やかになったら引き上げ、キッチンペーパーに並べて軽く水気を絞っておきます。
②鶏ミンチでそぼろを作ります。鶏の脂やアクを取るために軽く下茹でします。熱湯の鍋の中にミンチを入れ、箸で団子にならないようにさばき、アクが浮いてきたら、ザルに上げます。

③テフロンのフライパンに移し、分量の砂糖、酒、醤油で炒りつけます。好みで味付けをし、その後、だし醤油、塩少々で味を整えておきます。あまりパラパラにせず、しっかりとお作り下さい。好みで粉山椒(少々)を振りかけてもよいでしょう。

④錦糸たまごを作ります。卵5個に分量の砂糖、塩、水溶き片栗粉を混ぜて、なるべく薄く焼きます。冷めたらクルクル棒状にして、小口から細く糸のように切っていきます。

CCF20120402_00003.jpg⑤ごはんを炊き、熱いうちに合わせ酢を混ぜ、丸いおにぎりを作っておきます。

⑥浅めの小鉢にラップをひき、まず菜の花を中央に、その上に錦糸たまごをのせ、そぼろ(大2)をのせ、丸いおにぎりをのせ、再びそぼろ(大1)を振りかけてラップで茶巾のように絞ります。丸く形を整え絞り口を下にして、ラップに包んだまま盛りつけます。

 これで愛らしい形の手まり寿司ができあがり。お重に詰めてお花見や野遊びのお弁当にお試し下さい。お重のフタを開けると鮮やかな黄色の春の色が目に飛び込んで喚声があがることでしょう。

 それでは、また来月お目にかかります。


編集部より:大仁さんのフードレシピについては、このサイトで多数見ることができます。また、この記事の著作権は大仁浩子さんに帰属し、イラストの著作権は横江節子さんに帰属します。著作権の侵害にご注意ください。

〔もも家〕
TEL:078-391-2466
住所:兵庫県神戸市中央区中山手通1-7-20 前川ビル2F
(三宮駅の北、徒歩5分)




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