スポーツ医学とスポーツ現場をつなぐコミュニケーションブログ
 
夏野菜の代表格キュウリ。今月は夏の終わりに味わうキュウリが登場。その前にキュウリならぬニガウリ(ゴーヤ)にまつわるお話から。

父の畑
(文・料理/大仁浩子・「もも家」店主、イラスト/横江節子・神戸市垂水区在住)

CCF20120924_00000.jpg お盆の帰省ラッシュを避けて里帰りした。ちょうど、台風15、16号が連なって沖縄から九州をめざしている最中だった。風が庭の木々をゴウゴウとゆらしている。少々建てつけのよくない玄関のガラス戸を開けて、「ただいま」と奥に声をかけたが返事がない。耳の遠い父には、この風の音にかき消されて少々の声では届かないのだ。

 座敷に上がって仏壇の御灯明をつけ、お参りをしていると、台所のほうから、父がびっくりした顔をして現れ、「おぉ、おぉ」としばらくは言葉がない。やがて「変わりはなかったかね」と挨拶を交わした。とりとめのない話をしているうちにお昼になった。

「お父さん、何が食べたい」と尋ねると、「そうだね。一度はすき焼きをしよう。それから素麺には熱々のかき揚げを。久しぶりに、ちらし寿司をキツネあげに包んだものも食べてみたいと思っていたが」と言う。それは、まだ家族が賑やかに揃っていた頃の母の手料理の数々。母を思い出していたのかと、胸がこみ上げてきて絶句していると、「まあ、畑には野菜があるし、料理はあなたの好むように作ってください。畑には苦瓜も実っている」と言い残し、近所へ出かけていった。

 故郷は本州の最西端。九州が近い。そのせいか、昔からゴーヤを育てて食べる家も多く、その味の苦さから「苦瓜」と言い習わしてきた。ツル性のそれは、竹の支柱に絡みつき上へ上へと登って屋根まで届く。家庭で育てたものは、15cmくらいの握り拳の大きさに実り、ブラブラと軒先で揺れていたものだ。

 父の畑は、丘へ登る坂道の途中にある。一気に急坂を登るので、少し息が上がるのだが、畑に着けば、眼下には明るく開けた風景が広がる。町を眺めれば、子ども心には広いと思った道路の幅も狭い小路だったり、大きいと思っていた金比羅宮も小さな鎮守の森に屋根だけがのぞいている。昔遊んだ友人たちの家は、すでに住む人も替わり、ガキ大将だった男の子は消息さえわからない。懐かしい思い出の家々の屋根。それらはジオラマのようにしんと静まり、歩く人の気配さえもない。

 ふと、我に返って、畑を見回す。が、父の言う苦瓜がどこにもない。キツネにつままれたような気がした。小さな畑のこと、見渡しても竹の支柱の跡もない。ないものはないと、仕方なく、大葉とネギと太りすぎたキュウリを摘んで帰宅した。

 父も帰り着いたところで、私の手元を見て「苦瓜に届かなかったのかね」と言う。苦瓜など、どこにもないと告げると、父はアハハと笑い出し、「見つけられんかったのか。今年の苦瓜は去年の種から野良生え(のらばえ)して、椿の木に巻きついて登っていっとる。たくさんあって手に負えんほどじゃが」と言う。

 たしかに畑の北西には、大きなヤブ椿が4~5本植わっており、父はそれが自然の防風林になって、畑が北風から守られ有難いと常々話していた。苦瓜は、こともあろうに、その椿に巻きついていると言う。再び、畑に引き返し、椿の林に近づいて見ると、あった、あった。苦瓜は椿や高い雑木を這い上がり、葉を繁らせ、たくさんの実をつけていた。けれどもそれは、はるかに高い梢の先。高枝鋏で切り落としたとしても、今度はそれを崖沿いに降りて探さねばならない。それでは私の足元が危ない。諦めた。

 帰ってから父に、「あれは無理やね」と言うと、「あんたの背でも届かないか。まあ仕方ない。それにしても苦瓜はよい場所を得たと喜んでいることだろうよ。誰からも摘まれることなく、十分にのびのびと育ってくだろうから」と笑った。たしかに、苦瓜は平安を得ていた。「今が食べ頃ですのにね」と言わんばかりに、緑色にキラキラと光っていた。

 今年の夏、東京ではスカイツリーが大人気という。人は時々、今の場所からもっと上へ、さらに上へ、限りなく上へと高いところに登ってみたくなる生き物らしい。高いところへ登ると、たしかに目線も高くなる。そして、目線が変われば、日常の些細なことは、はるか下のほうにあって、それが小さなことに思えてくるから不思議。その高いところから見上げれば、空はますます高く果てしなく……。鳥の目を得た気持ちになる。過去の不幸な出来事も空のかなたに消えてゆく。

 さて、今年の夏。高みに登った父の苦瓜も、見ていただろうなと思う。私が、諦めきれずに何度も見上げて溜息をついたり、悔しそうに木を揺すったり、何度も枝に飛びついていたことを。高いところから、苦瓜は「愚かなことねェ」と見下ろしていたことだろう。

 だから、神戸に帰ってからも、スーパーに並んだ苦瓜を見るたびに、あのたくさんの苦瓜を思い出す。そして、イソップ物語の「キツネとブドウ」の話のように、「あの積み残した苦瓜は、口が曲がるほど苦いにちがいない」と思うことにしている。

*神戸ポートタワー
 東京にはスカイツリーがあり、神戸には港のそばにポートタワーがあります。世界でも珍しい鋼管パイプ構造の塔。「鼓」をイメージして、タワーの中央は少しくびれた形。展望台からは、東は大阪や関西空港、西は淡路島、北は六甲連山と360度の大パノラマ。市民に愛される赤い色の観光タワーです。
神戸市中央区波止場町5-5
電話078-391-6751
入場料金 大人600円 小人300円


「もも家」のフードレシピ

キュウリのパリパリ漬け
CCF20120924_00001.jpg
 残暑の毎日。ふと、まぶしい陽射しを振り仰げば、空には白い羊雲。長かった夏も、ようやく終わりを告げそうです。
 畑に行けば、夏の間楽しんだキュウリが、太いのや曲がったのや様々な形をして実っています。そんなキュウリを一度に摘んでお漬物を作りました。パリパリと歯ざわりがよく、一度に大量に作っても、あっという間になくなること請け合います。

 材料
キュウリ 10本
塩昆布 30g(市販の細切り塩ふき昆布)
土しょうが 60g

■調味料(漬け汁)
A:
醤油 180cc
みりん 80cc
米酢 90cc
砂糖 大1
酒 大1

B:
塩昆布 30g
土しょうが 60g(細く千切りにしておく)
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 作り方
① キュウリ10本を沸騰した湯の中に入れ、火を止めて、落し蓋をして、7~8時間、漬けておく。

② キュウリを半割にして、中のタネをスプーンを使って取り除く。

③ 端から1mm幅の小口に切り、ギュッと絞る。絞るとき、お箸のような硬いものと一緒に絞るとよく絞れる。もう一度、布巾に包んでよく水気を絞る。

④ 漬け汁(A)は一度沸騰させ、(B)を加えて、さましておく。

⑤ チャックシールつきのビニール袋に③のキュウリを入れ、④の漬け汁を注ぎ、袋の外から揉んでなじませる。
30分おいたら、味が染みて食べられます。残ったら、冷蔵庫で保存します。
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このキュウリのお漬物は、お素麺の上にのせても絶品のおいしさ。
炊きたての新米の上にのせて、お茶漬けにも。
よくぞ、日本に生まれけり、としみじみ嬉しい夏の終わりのお漬物です。


編集部より:大仁さんのフードレシピについては、このサイトで多数見ることができます。また、この記事の著作権は大仁浩子さんに帰属し、イラストの著作権は横江節子さんに帰属します。著作権の侵害にご注意ください。

〔もも家〕
TEL:078-391-2466
住所:兵庫県神戸市中央区中山手通1-7-20 前川ビル2F
(三宮駅の北、徒歩5分)


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