スポーツ医学とスポーツ現場をつなぐコミュニケーションブログ
 
三宮駅から徒歩5分程度のところにある「もも家」さん。そのビルの店が一軒一軒と閉店。厳しい状況はさらに続きそう。お近くの人はぜひお立ち寄りくださいね。今月は「穴子」のお料理です。

落葉の季節に
(文・料理/大仁浩子・「もも家」店主、イラスト/横江節子・神戸市垂水区在住)

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 六甲おろしの北風が三宮の街に吹いている。
 そんな11月のはじめ、隣のスナックのドアに一枚の紙が貼り出された。

「お客様へ
店を閉めることにいたしました。長い間、気ママな私に、寛大なたくさんの御贔屓を下さいました。ありがとうございました。
 気がつけば、半世紀に余る酒場の暮らし。遊ばせていただきました。楽しい嬉しい幸せな三宮でございました。感謝一杯でゆきます。皆様、どうか健康でお過ごし下さいませ。ほんとうにありがとうございました。 津田」

 津田と、ママの本名が記されていた。あの方は津田さんという名前だったのだ。

 隣の店のママは華やかな夜の顔を、このドアの奥の店に残し、本名で去ってゆかれたと、二度と開かない扉の貼紙を眺めていた。

 取り外すのを忘れられたのか、「会員制」と金文字で書かれたプラスチック板にネオンの光が反射している。津田さんという隣の店のママは高知の生まれ。若い頃から大層な美人。そして神戸が港町として栄えた昭和の景気の波に乗って、大きなクラブを開いておられたという。

「私は高知のハチキン。夜毎、夜毎、ブランデーのボトルを2本くらいは空にした」と言って、赤いバラ模様のレースの袖口から、白い指を4本さし出し、「いやいや、若いときは4本は大丈夫やったわ」と高らかに笑う人だった。そんなママの豪傑話をよく聞いたものだ。

ピンクのあざやかな花がらのマーメイド型のスカートがよく似合い、髪は茶色の金髪。香水の香りが漂って、明るい声でカラカラと話す。それでも手からグラスを離さない。グイとお酒を飲む。酔うと土佐弁になり、それで「酔っぱらい度数」がすぐわかる。ある日の夕方、階段の踊り場を掃除しているときに出会った。すでに千鳥足。

「あら、ごきげんですね」と声をかけると、「もも家のママ。お早うさん。元気しちゅう? 私もこれから店を開きゅう」と高らかに宣言。しかし、このお国言葉だ。今夜、店は何時に開くのか、怪しいかぎり。なのに、いきなり後ろを振り向いて、「もも家のママ、ごめんなさい。昼間から飲んでおりました。ちょっと、つまらんことがありまして。でも、真面目に店は定刻に開けます。いつもお掃除、ありがとうございます」と、スカートの裾をちょっと持ち上げて、バレリーナのように深くおじぎをした。その仕草があまりにも快活にしてエレガントにして子どもじみていて思わず笑ってしまうのだった。あっけらかんとして気のいいママだった。

 あるとき、やっぱり夕方、踊り場で出会った。ママの髪のカールが素敵だったので、「どちらの美容室ですか」と尋ねると、「カツラ、カツラよ。寒いから帽子代わりに載せとる」と、少し指でつまんでみせた。その指には、大きな猫目石の指輪。そのまわりには大小のダイヤモンドがぐるりと取り囲んだデザインになっている。美しく、重たそう。

「景気が悪いぞね。この指輪、質屋に持っていったら45万。五百万で買うたゆうに」と、悔しそうに言う。

「こないに不景気風が吹く、三宮は、つまらん」と言って、「楽しゅうて、面白ろうなかったら、生きとる気ィがせん、三宮に出てくるのが辛うて、辛うて」と言いながら、やっぱりミモレ丈のワンピースの裾をちょっと持ち上げて、カーテンコールの舞台女優のように深々とおじぎをした。

 閉店の貼紙が貼られたのは、それから間もなくだった。

 私が小さな店を開けているこのビルは5階建。8軒の店がある。今年になって、春頃から、1軒、また1軒と店が閉まっていった。隣のママが店を閉めたので、このビルで営業している店は3軒。とうとう、2階は私の店だけになった。週末はともかく、平日はひっそりと静まりかえっている。あの陽気で朗らかなママがおられたときは、ママの声が階段や踊り場に響き、華やかな空気が流れていた。エレベーターに乗ると、ママの香水の香りが残っていた。大人のゴージャスを演出するのに上手な人だった、と思う。

 昭和が遠くなるように、そんな大人の気配を持ち、神戸の夜を彩ったママたちが歳月を経て、一人、また一人と酒場の夜から去ってゆく。三宮の街路樹の葉が音もなく散ってゆくように。まだ鮮やかな紅の色を葉にとどめているというのに。落葉の季節に重なるように。

*瑞宝寺公園
有馬温泉街の近く、標高500mの地にある瑞宝寺公園は紅葉の名所。豊臣秀吉は、特にこの地の紅葉を「いくら眺めても飽きることがない」と愛でたことから、「日暮しの庭」「錦繍谷」の別称がある。11月には「有馬大茶会」が公園内で開かれる。
交通:神戸電鉄・有馬線、「有馬温泉」駅下車。南東へ徒歩15分。



「もも家」のフードレシピ

穴子のちらし寿司

CCF20121204_00001.jpg晩秋においしくなる根菜と名残の穴子でちらし寿司をつくりました。穴子は市販の焼き穴子。穴子は、神戸の西、明石が古くからの名産地。専門店があり、店のあたりには焼きあがった穴子のよい香りが漂います。

穴子は、淡白で上品な風味。関西では、養殖のウナギよりむしろ、穴子のほうが喜ばれます。

今回は、その穴子のちらし寿司です。


 材料
焼き穴子  2本
土ゴボウ  1本
人参    1本(180gぐらいのもの)
レンコン  5~6cm長さのもの 1本
卵     4個
白ごま   大3
米     3合

■調味料(米3合の合わせ酢)
米酢  100cc
砂糖   25g
塩   小2

■具の下味の調味料
出し汁 100cc砂糖 大2
薄口醤油 大2

 作り方

① ゴボウは水道の流水の下で、キッチンペーパーで泥や汚れをしっかり落とします。皮つきのまま、細い笹がきにし、水に放ってアクを抜きます。

② レンコンは表面の皮をむき、まず輪切り(4mm幅)にし、そろえて小口から5mm角に切り、薄い酢水につけてアク止めします。

③ 人参はよく洗い皮つきのまま、4mm角に切ります。

④ 水を切った①、②と③を、小さじ1のサラダ油で炒め、出し汁100cc、砂糖大2、薄口醤油大2で煮含め、味が染みたら、ザルにあけて煮汁を切っておきます。

⑤ 錦糸玉子をつくります。薄く、大きく焼きたいので、テフロンのフライパンを用意。卵をとき、砂糖大1,塩小1で味をつけます(水大2に片栗粉小1を溶いたものを入れると失敗が少ない)。サラダ油を薄くひき、卵4個で5~6枚の薄焼きをつくります。

⑥ 穴子は、皮のほうから包丁の背で軽くたたき、身をやわらかくします。1本の中ほどは飾り用に色紙形に切り、頭と尾のほうは、小口から1cmの角切りにしておきます。

⑦ 3合の炊き上がりの白米に、合わせ酢を2/3を混ぜ入れ、④の根菜、⑥の角切り穴子、白ごまを混ぜ合わせ、味をみて、残りの合わせ酢を入れて味をととのえる。

⑧ 錦糸玉子をたっぷりのせ、色紙形の穴子を飾ります。

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しみじみと里の秋を想う、根菜と穴子のちらし寿司です。根菜のうち、ゴボウは最近薬用(利尿、整腸、免疫の働きの調整)として見直されている野菜です。あまりアクを抜きすぎないよう調理されますように。

編集部より:大仁さんのフードレシピについては、このサイトで多数見ることができます。また、この記事の著作権は大仁浩子さんに帰属し、イラストの著作権は横江節子さんに帰属します。著作権の侵害にご注意ください。

〔もも家〕
TEL:078-391-2466
住所:兵庫県神戸市中央区中山手通1-7-20 前川ビル2F
(三宮駅の北、徒歩5分)

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