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         スポーツ医学とスポーツ現場をつなぐコミュニケーションブログ
 
ATのカッ藤

久米先生顔イラスト ブログアスレティック・トレーナー(以下AT)は、まだまだ新しい分野の職種です。私の(ウン十年前の)現役の頃には、ケガしても処置してくれる人などいませんでした。「ケガなんて、舐めときゃぁ治る」と言われた世代なのです。テーピングも、未だ日本に紹介され始めた頃です。本格的に毎日テーピングをする選手は皆無でした。それこそ、“そんなもの”していたら、「シャミ弾いてんじゃない!」と先輩に怒鳴られたでしょう。

 そういえば、今年の9月初旬に「関東甲信越不惑大会」というラクビーの大会に、学生トレーナーを連れてトレーナー・ステーションを設置した時のことです。“不惑”と銘打った大会だけに、参加者はみな40歳代以上の面々です。この大会の面白い所は、各年齢別にパンツの色が決まっているので、パンツを見ればだいたいの年齢がわかる所です。

キャンプ2009 010で、40代の方々がステーションで処置を受けていると、ちょうど通りかかった60・70代の先輩たちから「何甘っちょろい事をやってんだ!?」式の言葉が投げかけられることが再三ありました。もちろん、先ほどの「シャミ弾いてんじゃねぇ」式のからかい半分ですが、本心もチラリだったかもしれませんね。まだまだ、わが国のスポーツ根性論は健在です。

 高校生の大会にトレーナーとして出向くと、また違ったスポーツ根性論があるように感じます。選手がなかなかステーションに近寄らないのです。これには我々スタッフの努力が足りないことも十分考えられますが、とくにチームで行動している選手は、監督、コーチの目を気にしている向きもあるように思えます。

 足首を痛めた選手がステーションにやってきて、アイシング処置を受けていた時のことです。我々は、もちろんある一定時間ここでアイシングを続けるように指導したのですが、選手は監督の目が気になるようで、“ミーティングがある”と言い残して早々にステーションを離れて行ったのです。

 逆の話もあります。これは、私が指導しているクラブでの話です。

 今夏は、比較的過ごしやすい日が多かったように思えますが、練習となると別です。練習内容が密度を増せば増すほど、選手の疲労度は増して行きます。選手のなかには、こういった追い込まれ方に負けて、弱音を吐くものも出てきます。

 ある時こんなことがありました。選手がベンチに座っていたので「どうしたのか?」と聞くと、隣にいた学生トレーナーが「選手が気持ち悪いというので、休ませている」というのです。わたしはこの時、微妙な判定を強いられましたが、結局選手にはこう言いました。

「直ぐグラウンドに戻って、練習を再開しなさい」。
続けて、学生トレーナーには「なぜ休ませようと思ったのか」と聞きました。
彼は、こう言いました。「選手が休みたいと言ったので・・・」。

 ATが選手を診立てることは大変難しい、高等技術です。もちろん医学的に“診断する”というのではなく、今選手にしてやれる最良の方法は何か、を決定するという意味です。時には、明らかに応急処置が必要な場合もあります。しかし、この時でさえ、問診し、視診、触診した後、ケガの程度を評価する手順を踏んで処置するのが基本です。前述の例で言えば「選手が言ったので、その通りにしてやった」では、ATの存在意味がありません。 
       
 ATは、選手やチームにとって、監督・コーチと並んだ“客観的な”眼を持つスタッフでなくてはならないと、私は思います。時には、選手にとって冷徹な一言をかける勇気も要ります。また、時には監督やコーチに、選手起用を断念させる説得力も必要です。つまり、選手や監督・コーチを教育する手腕も求められるのです。でも、現状は・・・。

 ATの葛藤は、そのままATのアイデンティティ向上の一助になると、私は信じます。


久米秀作・帝京平成大学 (日本体育協会公認アスレティックトレーナー)
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